IoT(Internet of Things)の潮流から、インターネットデバイスとしての組み込みシステムに再び注目が集まっている。インテルのCPUアーキテクチャは、PCやサーバーだけでなく、様々な組み込みシステムにおいても広く採用され、機器に搭載されたCPUコア数や処理性能を最大限に引き出すためのソフトウェア開発ソリューションが用意されている。同社 ソフトウェア&サービス事業開発本部 ソフトウェア開発製品部 ビジネス・ディベロップメント・マネージャーの田中智子氏に、組み込みシステムとWeb/モバイルアプリケーションの開発者に向けた技術・ソリューションの特徴について聞いた。
IoT、ビッグデータ、モバイル、クラウドの時代に求められるソフトウェア開発とは
家電製品や産業用機械などにおいて特定の機能を実現するために搭載される組み込みシステムは、汎用のITシステムとは違って日頃スポットライトを浴びにくい分野ではある。しかしながら近年、ビッグデータ分析が重要テーマになるなど、地球上のありとあらゆるモノをインターネットにつなげて活用の可能性を探る動きが活発化している。 また、クラウドコンピューティングの進展やスマートフォン、タブレットなどのモバイルデバイスの世界的な普及が、IoTやビッグデータの潮流と共に加速し、デバイスを駆動するプロセッサーにはより高いパフォーマンスや信頼性が求められている。インテルはこの動きを「デジタルサービスエコノミー」と呼び、組み込みシステムやWeb/モバイルアプリケーションに向けたソフトウェア開発製品を共にキーテクノロジーとして位置づけている。
IA搭載機器の開発に最適化された「インテル® System Studio 2014」
「インテル® System Studio 2014」は、インテルが有償で提供するIAプラットフォームの組み込み/モバイルデバイス向けソフトウェア開発ツールスイートである。「インテルが主にHPC(High-Performance Computing)向けソフトウェア開発で培った、プロセッサーの性能を最大限に引き出す技術・ノウハウが継承された統合開発環境」(田中氏)であり、日本国内では、エクセルソフト株式会社がインテル® System Studio 2014単体を、フラットーク株式会社が同スイートとJTAGデバッガー・プローブ(ハードウェア)のインテル® ITP- XDPのバンドル製品をそれぞれ販売している。 インテル® System Studio 2014の構成として、デバッガー、アナライザー、コンパイラーおよびライブラリの3つが軸となる。稼働環境は、ホストOSとしてWindowsとLinuxの両OSをサポートし、ゲスト(ターゲット)OSとしてLinux、Wind River Linux、Android、Tizen(IVI)、Wind River VxWorksの各OSをサポートする。前バージョンであるインテル® System Studio 2013からの機能強化点として、ホストOSにWindows、ゲストOSにAndroidを新たにサポートしたことが目を引く。
3軸を個々に見ていこう。アナライザーではパフォーマンスチューニングツールとして「インテル® VTune Amplifier 2014 for Systems」が提供される。このツールを使うことで、アプリケーションごとの処理時間やコア内でのスレッディング状況、CPU内での発生イベントのサンプリングなどの詳細情報を把握できるようになる。この辺りはCPUベンダーであるインテルの大きな強みと言える。 デバッガーについては「インテル® JTAG Debugger 2014」が要となる。インテル® System Studio 2014ではインテル Core/Xeonおよびインテル Quark SoC(System-on-a-Chip)プラットフォームを追加でサポートしたのに加えて、BIOSの後継技術で今後、IoT分野での活用が期待されるUEFIのデバッグにも対応した。 コンパイラーの「インテル® C++ Compiler」についても、優位性はCPUアーキテクチャを熟知するインテルならではの処理性能と豊富な命令セットのサポートにある。また、GCCコンパイラとの互換性も確保され、環境の移行もスムーズに行える。ライブラリに関しては、シグナル演算とイメージ&フレーム演算を網羅した「インテル® Integrated Performance Primitives(IPP)」と、数学、科学や金融アプリケーション向けの数値演算を網羅した「インテル® Math Kernel Library(MKL)」が提供される。 このほかの特徴として、「日本での製品提供体制は現時点では未定」(田中氏)としながら、文字どおりIoT分野向けの「Intel IoT Developer Kit」や、世界規模で利用者数が急増しているAndroidに特化した「Intel Mobile Development Platform for Android」といった開発支援ソリューションをインテル® System Studio 2014のファミリー製品としてラインアップしていくという。
無料のモバイルアプリケーション開発環境「インテル® XDK」
一方、「インテル® XDK」は、HTML5ベースのアプリケーション開発ツールキットで、2013年2月にインテルがappMobiからの事業買収で得た「AppMob SDK」がその前身で、こちらは無料で開発者に提供されている(Windows 7/8、Mac OS X、Ubuntu Linuxの各OS版を用意)。 特徴は、モバイルアプリケーションのクロスプラットフォーム開発を容易に行える点にある。開発者は、インテル® XDKで提供される豊富なツール/ライブラリを活用して、モバイルWeb、iOS、Android、Windows 8/Windows Phoneといったさまざまなモバイルプラットフォームで動作するアプリケーションを、直感的な操作で容易に開発できるという。 スマートデバイスをはじめとするモバイルデバイスの爆発的な利用者増を背景に、インテルは2013年12月、インテル® XDKの大規模なアップデートを行っている。Intel XDK NEWと呼ばれる新版では、WebGLやWebオーディオなどの高度な表現に対応したオープンソースのランタイムエンジン「Crosswalk」の採用や、App DesignerやEditorの機能拡張などが挙げられる。 以上、インテル® System Studio 2014とインテル® XDKの特徴を概観した。田中氏によれば、両製品が属するインテルのディベロッパー・プロダクト・ディビジョン(DPD)は全世界1500名体制でHPCに加えて組み込みシステムやWeb/モバイルアプリケーションのソフトウェア開発者を支援する体制を整えているという。「ハードウェアの性能をいかに引き出していくかは両分野のソフトウェア開発で共通する最大のテーマ。各種オープンソースコミュニティーへの貢献も含めて、インテルは開発者の皆さんをテクノロジーとナレッジの両面からサポートさせていただく」(田中氏)