勇気は、可能な最高レベルの創造性、適応性、生産性のためのコンディションを作り出すものであり、今日の複雑化した社会を生き抜くためには必要不可欠なものだ。我々には、自分の役割が何であろうと、勇気を持ってリードする力がある。
Kathy Thomson氏はLean Agile Exchane 2020で、勇気の根源と、我々が個人および組織としてより勇気を持つための方法について講演した。
我々は常に困難な選択に直面しており、そこには2つの選択肢がある、とThomson氏は説明する。そのひとつは、鎧に身を固め、リスクを避けて、いつでも引き返すことの可能な、"安心できる道(the path of comfort)"だ。Brene Brown氏の研究によると、このような行動は、欠乏と恥辱(scarcity and shame)の意識(自分では不十分だ、自分には価値がない)から来るものである。自身の個人的経験から、これは極めて習慣的なパターンだ、とThomson氏は言う。
そうではない、"勇気を持つ道(courafeous path)"を選択するためには、意識を持って状況に立ち向かい、自らの選択肢を認識することが必要になる。我々を引き留めようとする外因は常に存在する(心理的安全性の欠如、実務的制約など)が、多くは自分のコントロール下にある内部的要因によるものだ、と氏は主張し、自己認識(self-awareness)の重要性を強調する。
我々は個人としての勇気に気を払わなければならない、仕事においても個人的な生活においても、勇気を持って行動することが、我々が潜在的能力をすべて発揮し、正しい道を見出す唯一の方法なのだ、とThomson氏は言う。
リーダならば、組織内における勇気を育てることができる。何よりも重要なのは、我々すべてが自身をリーダとして見ることだ。我々はみな、違いを生み出し、文化を変える力を持っているのだ。公式な立場としてのリーダに対して、氏は、勇気の重要性を認識し、自分たちの組織に存在する勇気の高さを率直に認めて、変化を起こそうという意欲を持つことが必要だ、と述べている。
自己認識のロールモデリングと個人的な勇気が鍵となるが、それ以上に、他のメンバが勇気を持つための安全なコンテナを作ることがリーダの仕事なのだ。リーダのことば使いにも大きな影響力がある。単純に"何をすれば安心できるか"を聞くだけでは、目標の達成には程遠い。
InfoQはKathy Thomson氏に、日々の生活における勇気とは、組織的な状況において勇気の欠如がどのように現れるのか、個人および組織として勇気を持つには、などを聞いた。
InfoQ: 日々の生活の中で、勇気とは、どのような役割を果たすものなのでしょうか?
Kathy Thomson: 複雑性に対してアジャイルアプローチを使用し、顧客によりよいものを提供したいのであれば、新たな方法を試し、うまくいかない場合は率直に報告し、健全な議論を行い、周りの人々を信頼して意思決定を行う(つまり、リーダシップに関する考え方を変える)勇気が必要です。
私の知っている中で、最も生産性が高く、かつハッピーなチームでは、メンバ同士が向上するためにチャレンジし、フィードバックを交換し合うことに時間を費やしていました。彼らは全員が発言できる方法で新たな手法を試すことで、マネジメントに関する問題を提起するアプローチをいくつか見出しました。
いずれのアプローチにも勇気が必要であると同時に、多くのケースにおいて、これまで受け入れられて来た行為を変える必要がありました。個人レベルの勇気について考えれば、このことは、ある役割やチームがあなたにとって適切ではない場合に、それに関して上司に話をする、という行為に相当すると言えるでしょう。
InfoQ: 勇気の欠如は、組織の状況の中でどのように現れるものなのでしょうか?
Thomson: アジャイルアプローチでは、多くの人たちが、これまでの仕事のやり方(ウォーターフォール、管理構造、結果よりもアウトプットを重視、価値のフローにおけるリソース活用)を変えることを迫られます。そこから感じる違和感、不確実性のレベル、同僚やリーダと対話する方法を変える必要性など、人々が求められているその大きな変化を、私たちは甚だしく過小評価しているのです。
さらに私たちは、社会や学校や家庭にある条件の一部を取り除くことで、行動を止めさせるのではなく、行動を評価するように、人々に対して働きかけを行っています。このような変革は困難で、スクラムのようなフレームワークを導入するのみでは、アジリティのメリットをまったく得られない場合もあります。活動を通じて呼び方を変えることは可能であっても、実際には何も変わらない(つまり"安心できる道")のです。
InfoQ: 個人や組織として、もっと勇気を持つにはどうすればよいのでしょうか?
Thomson: 勇気に対するこれまでの見方は、強さのひとつというものでしたが、意外なことに、その源泉は自己認識にあるのです。不確実性、リスク、恐れなど、その瞬間に起きている感情について認識さえすれば、これを取り除いて、安心よりも勇気を意識的に選択することが可能になります。
瞑想やマインドフルネス(mindfulness)は自己認識の構築に有効ですが、最も単純なのは呼吸です。これは誰でも、いつでも行っていることだからです。呼吸を意識することは、自分が不安定な気分や、リスクを感じているというシグナルとして働きます — 息を止めていたり、呼吸が浅くなっているはずです。このことを心に留めて、より深く呼吸すれば、リラクゼーション反応を刺激して、脳の意思決定部分が元に戻るでしょう。
職階に関する対応のように、過去のパターンや習慣的行動を意識することも有効です。これらをすべて組み合わせれば、勇気ある選択ができる、という図式が作り上がります。
勇気を奮うために必要な条件を整える上で、チームにできることはたくさんあります。健全な議論や、率直な意見とフィードバックを備えた組織文化が必要であることを、労働協約を通じて表明することで、人々が勇気を持って新たな行動を起こし、互いに学ぶことのできる安心感を作り出すことが可能になるのです。この分野において、私を最も助けてくれるツールはRadical Candor (Kim Scott氏の書籍より) です。ケアとチャレンジのバランスを取るという非常に単純なモデルですが、チームが難しい会話をする上での条件とボキャブラリを与えてくれます。