BT

最新技術を追い求めるデベロッパのための情報コミュニティ

寄稿

Topics

地域を選ぶ

InfoQ ホームページ ニュース WebExpo 2019 - テクノロジとAIを使って、医療を安価で誰でも使えるものに

WebExpo 2019 - テクノロジとAIを使って、医療を安価で誰でも使えるものに

原文(投稿日:2019/09/21)へのリンク

Babylon Healthのユーザ研究リーダであるAnna Zawilska氏がプラハのWebexpo 2019で講演し、テクノロジと人工知能(AI)を組み合わせた遠隔医療を提供した経験と、そこで得た教訓を公開した。その過程でBabylon Healthは、製品開発の基盤として同社が立案した、3つの重要な仮定を修正することになった。

氏の講演は、世界人口の少なくとも50パーセントが基本的な保健医療サービスを受けられていないという、世界保険機関(WHO)の調査結果を紹介することから始まった。そのような状況下において、モバイルデバイスの遍在性と人工知能の診断能力との組み合わせには、医療サービスの範囲を拡大する可能性がある。Babylonのエンジニア、医師、科学者たちは、患者の症状に関するデータを受信し、その情報をデータベース上の既知の状態や症状と比較してマッチングするものを見つけて、行動の指針や関連するリスク要素を特定することの可能なAIシステムを開発した。

Babylonのモバイルアプリケーションの一般的なユーザフローは、ユーザ自身の経験している症状をアプリケーションに入力することから始まる。続くステージでは、入力された症状に従って質問が出され、患者に影響を及ぼす可能性のある条件が絞り込まれる。さらに第3のフェーズで、レコメンデーションが生成される。

Babylonのチームが立てた最初の仮定は、患者は医師を信頼するのと同じように、(症状を入力した)チャットボットを信頼してくれる、というものだった。しかしながら、実験した結果から観察されたのは、人間である医師とマシンベースのテクノロジとでは、ユーザの行動に大きな違いがある、という事実だった。

患者は一般的に、医師が知識や資格を持っていると信じているが、同じような信頼は、チャットボットには向かわない。さらに、人間の医師による診断中に患者が席を立つことはほとんどないが、チャットボットのユーザは診断を早めに終える傾向がはるかに大きかった。そして最後に、患者は一般的に医師のアドバイスに従うべきだと考えているが、チャットボットのユーザがそのアドバイスを信頼して処方に従うことはそれよりも少ない。

ユーザの信頼はあてにできない、従って、信頼のための設計が必要だ、とBabylon Healthでは結論付けた。Zawilska氏はユーザインターフェース変更の例を紹介した — アプリケーションがユーザに対して、"首を動かす上で何か不都合はないですか?"と質問する場合には、その質問の理由を説明するようにしたのだ。この場合、例えばアプリケーションは、"この質問は、緊張性頭痛の可能性を排除するためのものです。あなたのような症状の場合、頭痛を伴う首の痛みが、緊張性頭痛の強い予測因子となっています"、というメッセージを表示する。

信頼の問題は、医療業界では特定の水準にまで達している。Zawilska氏はここで、医療技術における最新のイノベーションに対する信頼を失墜させることになった、(Theranos、あるいはDNAシークエンシング(sequencing)に関する)先日の論争を引き合いに出した。

彼らが立てた2番目の仮定は、BabylonのAI予測の成功に対する評価は、唯一の基準である臨床安全性によってのみ行われる、というものだ。AIは、大量のデータによってトレーニングされるのが一般的である。最終的なAIモデルは、テストセットに対して、いくつかの評価基準を用いてテストされる。AIモデルを検証する唯一の基準として臨床安全性を使用することは、ユーザエクスペリエンスに悪影響を及ぼすリスクが高い、とZawilska氏は説明する。

現実的な問題として、臨床安定性に最適化するということは、必ずしも必要でない状態の患者に対して、AIが緊急治療室(ER)への搬送をレコメンドするケースが存在する、という意味になる。このような状況が多発すると、結果として患者は、アプリケーションの価値をより低く見ることになる。

一方で、ユーザエクスペリエンスのみに最適化することにも、また別のリスクが存在する。アプリケーションは理論上、ユーザの状態とは無関係に、症状を緩和するメッセージを出力し、鎮痛剤の使用をユーザに推奨する可能性がある。ユーザエクスペリエンスの面ではこれでよいのかも知れないが、健康リスクのあることは明らかだ。

Babylonはそこで、自社のAIを、臨床安全性とユーザエクスペリエンスの2つの基準で評価すると決定した。スイートスポットは、患者を必要な時にはERに送り、適切な場合には元気付けたり治療したりすることにある、とZawilska氏は述べている。

Zawailska氏が言及した第3の、製品開発に最も大きく影響した仮定は、"素早く行動し破壊せよ"だった。FacebookのMark Zuckerberg氏によって有名になったこのモットーは、テクノロジ提供におけるスピードの必要性を強調するものだ。しかし近年では批判の声も高くなり、"実用最小限の製品(minimum viable products)"を"最低限道徳的な製品(minimum virtuous products)"に置き換えること、すなわち、新たな製品のステークホルダに対する影響をテストし、潜在的損害に対するガードを組み込んでおくことが推奨されている。

Babylon Healthではしかし、"安全ならば素早く行動する"というアプローチを採用した。サンプルとしてZawilska氏は、インターフェース変更が臨床安全性に反する影響を与えるような、ユーザインターフェースの変更を行うシナリオを、例として示した。これらのケースでは、提案された変更に進むことを決定する前に、まずはそれらの調査を検討して調整する必要がある。

Babylonは英国のスタートアップで、"誰もが利用できる安価な医療サービスを、世界中のあらゆる人の手に"を自らの使命としている。同社は人工知能(AI)ツールと人の医学的専門知識を組み合わせることで、この目標を達成しようとしている。

Webexpoは開発者、UX専門家、デザイナ、マーケティング担当者が出会い、自身の経験を公開するカンファレンスである。WevExpo 2019は9月20~22日、チェコ共和国のプラハで実施されている。

この記事に星をつける

おすすめ度
スタイル

BT