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パイロットプロジェクトを世界規模のIT組織に拡張するには

原文(投稿日:2019/12/26)へのリンク

パイロットプロイジェクトを世界規模のIT組織に拡張することは可能だ、正しく行えば十分に機能して、企業全体のトランスフォーメーションに寄与するものになる、とClemens Utsching氏は言う。DevOpsCon Munich 2019で氏は、アイデアから始まったものを世界的組織にスケールアップする方法について講演した。

BI XはBoehringer Ingelheim(ドイツの製薬会社)のディジタルラボである。アイデアを初期スケッチからチャレンジの対象へと形作り、それを証明するための場所と方法を決定する方法として、BI Xでは、Pitch Deckと呼ばれる確立した配布物を用いたアイデアの概念化を集中的に運用している。Utschig氏によれば、

この手法は、アイデアの課題とチャンスに加えて、それを立ち上げる環境を明確かつ詳細に述べるものです。スタートアップやパートナをスカウトする上で、"車輪の再発明"を確実に回避するために、概念化は重要な役割を果たしています。

このステージ、およびそれ以降において、プロダクトオーナは極めて重要な役割を持つ、とUtschig氏は言う。プロダクトオーナは自身のアイデアを持ってBI Xに4~6ヶ月滞在し、その結果として、ユーザリサーチや開発、MVPテストを行うスタッフを揃えたプロダクトチームを与えられるだけでなく、場合によっては実際の(エンド)ユーザを対象にしたパイロット段階にまで進むこともある。

所有するビジネスにプロダクトとしてのニーズがあると推定される場合には、ハンドオーバのステージが開始される。このステージは3~6ヶ月の期間で行われ、新たなチームを探し、新たなメンバによる製品ビジョンの理解を支援し、彼らをBI X精神へと導く。

この過程では、多くの課題に直面するが、すべてのハンドオーバにはそれぞれ小さな違いがあるため、それらに対処するための適切な方法はひとつとは限らない場合も多い、とUtschig氏は言う。ユーザリサーチから始まり、UX設計、さらにはストーリやバグ、最終的にはコード系統に至るまで、充実したドキュメントを用意することが、知識を維持する上では極めて重要だ、と氏は述べている。

アジャイルな作業方法や考え方を新チームに正しく導入する場合においても、これと同じことが当てはまる。製品ビジョンを新チームにトランスファして、研究チームと同じように、製品を真に自分たちのものにすることも、間違いなく重要なことだ。固定的な組織構造や長期間にわたるプロセスは製品開発の障害となる、とUtschig氏は言う。重要なのはタイミングを掴むことだ — リズムに乗り損なえば、生み出す価値も少なくなる。

Boehringer IngelheimのITストラテジ部門を統括するCTOのClemens Utschig氏と、BI X Digital LabのバックエンドエンジニアであるGerard Castillo氏に、パイロットプロジェクトから世界規模のIT組織への拡張について話を聞いた。

InfoQ: Boehringer IngelheimがBI Xを立ち上げた理由は何ですか?

Clemens Utschig: BI Xは、世界20位の研究型医薬企業であるBoehringer Ingelheimのディジタルラボです。最新の革新的なディジタルプロダクトの研究、概念化、構築を行う新たな手段として、Boehringer Ingelheimのディジタルトランスフォーメーションをリードする目的で2017年に創設されました。

インキュベータはベルリンやボストン、テルアビブといった、広く知られたスタートアップハブに置かれることが多いのですが、当社は親企業との関係を維持するため、あえてBoehringer Ingelheimの本社のあるインゲルハイムを選びました。そのため、親会社内にある膨大な知識の活用が可能であると同時に、パイロットプロジェクトのハンドオーバも容易なのです。

InfoQ: コアとなるITサービスの共同開発や運用はどのように行っているのでしょうか?

Utschig: 先程説明したように、場所が近いことが大きな役割を果たしています。地理的に近いということは、関係性が近いということでもあります。IT部門とBI Xは、少し挙げただけでもセキュリティやUXスタック、あるいはベースプラットフォームといった部分で、プラットフォームレベルでの共同作業を毎日行っています。プロダクトにはそれぞれ、異なったITサービスが必要です(eCommerce、チャットボットなど。これらのものには、特定のプロダクトを越えたサポートが後々必要になってきます)。このような方法で私たちは、ハンドオーバの開始時期、テクノロジが既知であること、リスク軽減が — 必要ならば — 可能であることを確実なものにしているのです。

Gerard Castillo: ディジタルトランスフォーメーションを推進し形成する上では、さまざまな部門や既存のチームと関係を持って、お互いを知り、どのような考え方やワークフローが共有可能であるかを理解しなければなりません。これはPaaSやデータサイエンス、UI、UXなどのさまざまな個別のトピックに基づいて小規模なコミュニティを確立し、問題を解決して、次のステップに照準を合わせる作業である、と見ることもできます。ですからこれには、単なる技術的視点からのディジタルトランスフォーメーションではなく、そのようなトランスフォーメーションを活用するための考え方の普及という意味もあるのです。

定期的に会って人々の声を聞き、ひとつのビジョンに集中した特定のアクションに関与することが重要です。これが実現して、その内部に関わることができて初めて、自らがトランスフォーメーションを実施していると言えるのです。

InfoQ: パイロットの結果を拡張するにあたって、どのような課題がありましたか?

Utschig: たくさんの問題がありました。例えば、

  • 人材探しが遅すぎる
  • 従業員のディジタル技術に関するポジショニングやブランド化の必要性 — 採用アプローチやメディアとの対応方法を再考する必要がありました
  • ドキュメントの陳腐化による知識の散失
  • テクノロジ引き継ぎと製品ビジョンの喪失
  • 新たな作業習慣がスケールアップ後のチームに反映されないこと — 迅速かつ直接的なフィードバックや、非階層構造など
  • スケールアップフェーズにおける、それが困難な作業の始まりに過ぎないことの理解。MVPやパイロットに寄せられた数多くの要求に対して、これからがそれを提供する段階であり、時にそれは大きな困難を伴うものである、ということを忘れてはなりません。

InfoQ: パイロットプロジェクトを世界規模のIT組織に拡張する作業から、どのようなことを学びましたか?

Utschig: 最初の製品開発から学んだことがあります。

  • IT担当者を最初の段階から参画させること。それにより相互学習(新技術と、品質ガイドラインのグッドプラクティスや規則の大規模な運用)が強化される。
  • 自動化が重要であること — 特に継続的デリバリとレグレッションテストにおいて。
  • 内部ユーザを対象にする場合と、外部ユーザを対象にする場合の製品の扱いには大きな違いがあるということ — これについては、いまだ学習途上です。
  • 人々に近づくことによって、サイロ思考の低減とインターフェースの強化が可能であること — 私たちはこれを証明し、今も変わりつつあります。

学ぶべきことはまだたくさんありますが、ユーザにとっても、市場に提供するプロダクトのスピードや品質においても、その価値を十分理解しているので、すべてのレベルにおいてこの課題に取り組んでいます。

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